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ケーススタディ

CASE STUDY

後継者育成

ケーススタディ-1「中堅企業における後継者育成コーチング」

ケーススタディはコーチングが効果を発揮した事を、事例をもってご紹介する目的で作成いたしました。守秘義務を遵守するために匿名はもちろんのこと、コーチングの背景、テーマ、プロセスなどは最小限の範囲でシンプルに記していますが、実際のオリエンテーション、プレコーチング、コーチングセッションは、クライアントの人としての、人生の夢、価値観、達成感、懸念、葛藤などが共有され、コーチもこれら真摯に対峙し、対話を進めることでコーチングを進めております。

コーチングの目的:
後継者育成

コーチングのメインテーマ:
次期経営者としてのファウンデーション(自己の基盤)を整え、
新たなチャレンジに向かうエネルギーを最適化すること。

クライアント:
ご依頼人は中堅製造業の経営者。
コーチングの対象は会社を継がせたい経営者のご次男。

《コーチングを依頼された背景》

中堅製造業の経営者、M社長は、
父から継いだ会社の経営をいかに
次の世代に引き継ぐかを真剣に考える歳にさしかかっていました。

ご長男は数年前に大手の外資系会計事務所に就職し、
そこでのキャリアを進むことを決意した
本人の意思を尊重して後継ぎへの期待は断ちました。

ご次男は大手流通業に就職し、
5年の就業経験した後に自分の会社に呼び戻し、
営業課長を皮切りに部長、事業部長、
役員と後継者としての道を歩ませました。(以降、T専務と表します)

T専務の次期社長就任については経営陣との合意もできており、
役員としての数年の経験を最終段階とした上で
次期社長に就くというシナリオが進行していました。

この状況でM社長の懸念は、

1,専務に対して経営者となるための
ステップ(職位、経験、判断の機会)をかなり早急に提供し、
強く背中を押してきたことで、仕事中心の生活になっている様子。

2,役員、社員との信頼関係作りや、
取引先(お客様、仕入先、金融機関、など)との
人脈作りを支援してきたが、いわば全てが
身内の様な関係者なので、
次男に対して遠慮や忖度が生じ、
客観的に自分を見つめる目が曇っていないか?

の2点でした。

経営者として教え説いてきた内容は
現実的、実戦的なものであり、またT専務自身も期待に応えて
実績を上げているので、ここまでの後継者としての導きに
間違いは無いと自信がある一方で、

製造業を取り巻く厳しい環境の中で
次世代の社長が持つべき、資質、発想、スキル、視点は
未だ別のところにあるのではないか?と危惧したのです。

今一度、自分を客観的に見つめてみる機会を
多く持たせることが大切だと感じ、

T専務へのコーチングを依頼されました。

《クライアントの抵抗~「なんで自分にコーチなんか要るの?」》

自分以外の誰かをコーチして欲しい、
というケースでよく起こるのは、
コーチされる方が

「何故、私にコーチが付くのか?」

という自然な疑問です。

このケースの様に、
既にビジネスで実績を上げ
自信に満ち溢れている方にとってはなおさらです。

ポジティブな方は
「自分の学びの機会を用意してくれた。ありがたい。
是非この機会を活用して、さらに一段成長しよう。」と思い、

そうでない方は「今更コーチなど必要ない。
実績を上げてきた。
自分の実力を認められていないのか?」
と思うことがあります。

T専務は、これほどネガティブではありませんでしたが、
コーチングに費やす時間やコストがもったいないと考えられたようです。

本音で表現をするなら、
「今のやり方で実績を上げている自分に対して、
実際の現場の仕事内容も知らない第三者から
アレコレ言われることは全く無意味。

というお考えでした。

コーチングというものを
誤解されていたことから生じた発想でした。

つまり、自分に足りない点や、
改善が必要な点を指摘して、
あれやこれやとアドバイスするのが
コーチだと考えておられた様です。

《オリエンテーション ~ 時間をかけてコーチングへの誤解を払拭》

そこで先ずオリエンテーションの
お時間を頂き「コーチングとは何か?」
というご説明からお話を始めました。

この時はコーチングのご依頼をされてきた
M社長が同席した3者面談になりましたが、
この様なケースでは特に珍しいことではありません。

オリエンテーションの目的は、
コーチとクライアントが新しい関係性を築くための場でもあります。

クライアントの成長や目標に向けて一緒に歩むコーチと、
馬が合うか?信頼関係が築けるか?を確認しながら、
相互信頼のためにお互いの役割やコーチングのルールも明確にしていきます。

T専務の「現場が分かってもいない第三者が
自分にアドバイスをしに来る」という誤解は払拭できました。

オリエンテーションにM社長もご参加頂いたのは、
コーチと依頼人との間の関係性も相互理解を
基にした良いものである必要があり、
また守って頂きたいルールもあるからです。

それは、コーチングセッション(T専務との対話)の内容は
基本的にM社長には漏らさないということです。

これはコーチとしての基本姿勢です。

M社長はT専務の状況を心配されて
コーチを雇ったので、「T専務がどの様な考えなのか?
自分の事について何か言っているか?
どの様な会話をしているか?」をコーチから聞き出したい、
そしてコーチングの効果も知りたいという誘惑があります。

しかしコーチは(表現は悪いですが)
スパイの様なまねは一切いたしません。

クライアントの話した内容が、
容易に第三者(例え親であっても)に
伝わるようでは、コーチングセッションの場は
クライアントにとって「安心安全の場」ではなくなるからです。

コーチングセッションは、クライアントが
コーチを信頼し心を開いて何でも話せる場であり、
その提供ができなければコーチングは成り立ちません。

そのルールをM社長に理解して頂きました。
T専務の考えを知りたければ、その場を設定し
真摯に向き合うのはM社長の役割だからです。

M社長はある程度
コーチングについての知識をお持ちでした。

そして何故、T専務にコーチングが
有効であると考えたのか?を
直接T専務に対してお話頂き、
T専務がコーチングを受けることの合意に至りました。

《プレコーチング ~ 自分の現状を認識、夢を言語化》

コーチングセッションを始める前に、
スターターキット(事前に情報を提供して頂く書類)を
ご記入頂き、その内容に基づいてプレコーチングを行いました。

スターターキットで記入頂く内容は、
ビジネスの領域に限ったことではありません。

仕事、普段の生活、人間関係、健康、経済、など
身の回りの環境について可能な限り詳細に教えて頂きます。

(従って、コーチング契約では、
個人情報とコーチングで知り得たことの
守秘義務がコーチに生じます)

これをコーチングでは「ライフバランス」と呼び、
この「良し悪し」や「気がかりの有無」を
クライアントと一緒に俯瞰してみます。

何故なら目標の達成に向けてコーチングを通じて
エネルギーやモチベーションを上げていこうとしても、
このファウンデーション(自己の基盤)が整っていないと
どこかに歪(ひずみ)が生じて、自分をごまかしたり、
他人のせいにしたり、あるいは人間関係や
健康に害を及ぼす危険が生じるからです。

コーチングでは「ファウンデーションを整える」という
非常に重要なテーマになります。

T専務のライフバランスはM社長がご心配されたとおり、
仕事に多くの時間を費やする日々であり、
仕事以外の人間関係は少なく、家族との会話も希薄。

また、多忙を理由に健康への配慮も
疎かにしていたこともわかりました。

壮年の働き盛りの典型の様子ですが、
社長の立場となると、この延長線上で良いとは思えません。

小ぶりな会社とは言え、従業員の生活も背負う立場で
多くのストレスを抱えることは想像に難くないので、
先ずはファウンデーションを整えることをコーチングのテーマとしました。

また、「達成したい目標」については、
「会社の売上の中心である下請け製造の他に、
自社の製造技術を活かした製品開発にも着手したい。」
というテーマが浮上しました。

それについてはT専務なりに様々なアイデアや夢をお持ちでしたが、
現業の忙しさから、「目標」と位置付けて取り組んではこなかったとのこと。

「夢」に「日付」を書き込むと「ゴール」になる、ということを
お話してプレコーチングを進めました。
自らの考えを言語化し、必要な行動やリソース
(お金、人、情報など)を列挙し、それらを時間軸に置いていく
コーチとの対話
は、T専務にとって有意義な時間となりました。

コーチは製造業の事も、技術の事も知りませんでしたが、
T専務の中にある目標達成へ向けての考えや
行動計画を引き出し、道筋作りのお手伝いが出来た
ということです。

「自社製品の開発」というテーマは、
後継者として不可欠なものではなく、
M社長が望んだことでもありませんが、

目標設定とそこへ向かう過程で
得られるものの価値を考えると、
T専務にとって相応しいコーチングのテーマだと思いました。

プレコーチングの最中に
T専務の口から「ビジョン」という
言葉が出てきた時に、その思いを強くしました。

《フォローコーチング ~ 共に山を登っていくコーチングセッション》

コーチングセッションがスタートしました。

コーチングセッションの場で
都度フォローコーチングが行われます。

ビジョンやゴールを常に明確にし、
クライアントがゴールに向かっていくエネルギーを最適化する場
です。

最初の3回は週1回ペースとし、
主にファウンデーションを整えるためのアクションプランと、
目標達成のための「協力者」という視点で
リソースを見い出すことをテーマにしました。

仕事中心の生活からくるストレスで
新しいアイデアへの意欲が減退していたことや、
今まで接点の少なかった人脈の中から
協力者となりそうな人を発見したりと、
大小様々な気づきがありました。

4回目からは2週間に1回とペースを落とし、
コーチングセッションのテーマは、
アクションプランに基づいた行動とそのレビューです。

計画通り出来たこと、出来なかったこと、
行動を通じて学んだことをコーチと共有して、
次の2週間で取り組むべき課題や、
新たな目標について一緒に考える時間を設けました。

コーチの立場としては一緒に山を登っていく感じです。
平坦な道もあれば、急こう配や、険しい道もあります。
晴天の時も雨の時も、道に迷わず共に頂上に目指します。

そして山道の先を歩くのは
常にクライアントなのです。コーチが先導するわけではありません。

そもそも、3代続いた会社の歴史で
初めての自社製品開発という
大きなチャレンジをしているのですから、
そう簡単に到達できる目標(ゴール)
ではありませんし、行動も
アクションプラン通りに進むわけではありません。

しかし、ゴールと現在地の間に
小さな到達目標をいくつか設定し、
前へ進むエネルギーやモチベーションを
維持することや、出来なかったことについては
コーチと共に素直に、客観的にその事実を見つめ、
新たな視点を求めることや、ファウンデーションが整っているかの確認を続けました。

そして、ゴールの明確化とそれに向けてモチベーションや
エネルギーレベルを維持するのに一番効果的だったコーチからの質問は

「何故、自社製品の開発は重要なのですか?」
「それは近い将来社長になるT専務にとって何故大切なのですか?」

であったと後日ご本人から伺いました。

最初は「今は安定しているが、
下請け製造だけでは先細りになるなぁ」という
漠たる心配からの思い付きだったとのことですが、
何故?と自らに問うことでビジョンが見えてきたとのことでした。

自社製品を世に出すことで、
会社のプレゼンスが上がる、
新たな技術力が育つ、製品保証能力が磨かれる、
仕入先が増え調達力が向上する、
そして社員のモチベーションが上がり仕事が楽しくなる、と。

10回のコーチングセッションを終えた後は、
ペースを月1回と間隔を空けました。

T専務自身の行動やレビュー、気づきと次のアクションが
質、量ともに増えてきたからです。

新たなコーチングテーマが語られる機会も
少なくありませんが、敢えてあまり手を広げずに
T専務のファウンデーションを整えながらコーチングセッションを進めています。

自社製品の開発については未だ模索が続いており、
計画が実を結ぶのはおそらく3~4年後だというのが
現実的な予測です。

しかし、その時期を待たずにT専務の新社長昇格が
為されるかもしれません。

自社製品の開発に取り組むことで、
次世代リーダーとしてのプレゼンスが急速に高まったからです。

《コーチングへの評価 ~ ご依頼人からのフィードバック》

依頼人のM社長はコーチングの
効果を以下の様にまとめてくださいました。

1.息子(T専務)が身の回りの環境(ライフバランス)を
整えることの大切さに気付き、
それに取り組んでくれる様になったこと。

次の経営者としての人間の厚み、
例えば受容力や思いやり、他人への感謝なども学んでいるように思える。

2,おぼろげなアイデアはあったが、
経営陣としてまともに対峙して来なかった
「自社製品の開発」について忌憚の無い議論が
できるようになった。

これは予期していなかった副産物であった。

夢を具体的な目標に変え、想いを言語化し共有することで、
T専務は会社経営に大きなテーマを創り出した。

結果がどうなるか?未だわからないが、
目標へ向かうプロセスの中で、本人が学び、
今も学び続けていることは将来の経営者にとって
有益なものであると信じている。

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