経営層や人事責任者の方であれば、部下やメンバーとの対話の中で「噛み合わなさ」を感じたご経験が一度や二度ではないはずです。
特に評価や進捗に関するヒアリングにおいて、
「まあまあです」「順調です」「ぼちぼちです」といった曖昧な言葉が返ってくると、それ以上の深掘りが難しいと感じたことはないでしょうか。
本日は、そのような“感覚的な言葉”の限界を乗り越え、組織の中での対話の精度を高める「スケーリング(scaling)」という手法をご紹介いたします。
感覚ではなく、「測る」ことで共通認識を得る
「スケール=尺度」。
本来、コーチングにおいてはクライアントの感情や進捗、状態を可視化するために用いられる技法です。これを組織の中で活用すると、「曖昧な会話」が「建設的な対話」へと変わります。
例えばこういった問いかけです。
「現在のプロジェクトの進捗感を、1〜10の数字で表すとどのくらいでしょうか?」
「まあまあ順調です」という言葉より、「7です」と数字で返答されることで、
次のような具体的な問いに発展させることが可能です。
- 残りの3を埋めるために、何が必要か?
- いつ、どのように8に到達できそうか?
- 前回は5だったが、6になった要因は何か?
数値化することで、目標とのギャップが明確になり、話が“進む”のです。
感情の共有や自己認識にも効果を発揮
この手法は、進捗だけでなく、感情の温度を測ることにも応用されます。
たとえばアンガーマネジメントでは、
「怒りを10段階で表すと今どのあたりか?」といった問いが用いられます。
「6くらいでしょうか」と数値で示すことで、
「なぜ6なのか」「どうすれば4に下げられるか」といった思考が促され、
衝動的な反応を抑えることができます。
こうした“可視化”は、自身の内省を助け、組織内の対話にも理性と深みをもたらします。
スケーリングは、曖昧な対話を明瞭にするビジネスツール
スケーリングは極めてシンプルでありながら、
「対話の質」を変えるきわめて有効なツールです。
特にマネジメント層にとっては、部下の感情や成長度合い、モチベーションといった“目に見えにくい情報”を把握するうえで、有益なアプローチといえます。
「抽象的な表現」に頼らず、「共有可能な指標」としての数字を用いることで、
同じ方向を見ながら、具体的な改善策を話し合うことができるようになります。
最後に
対話がズレているのに、それに気づかず会議や面談が進んでしまう——
そうした組織の“もったいなさ”を、スケーリングは静かに補ってくれます。
現場の管理職との1on1、経営会議での意識合わせ、人材育成の面談など、幅広いシーンで応用が可能です。
ぜひ、貴社の対話にも取り入れてみてはいかがでしょうか。

