コーチングにセオリーの絶対視は必要ありません
ビジネスの現場でコーチングが広く活用されるようになり、「答えを与えない」「課題よりもクライアントの変化に焦点を当てる」といった理論が注目される場面が増えてきました。
これらの考え方は間違いではありませんが、すべての場面に当てはめようとすると、かえってクライアントにとって効果的な支援ができないこともあります。
大切なのは、理論を押しつけることではなく、その場の状況に応じて柔軟に対応する姿勢です。
職場で求められる「コーチング型マネジメント」の本質
最近では「コーチング型マネジメント」が推奨される企業も増えていますが、これはコーチングの理論をそのままマネジメントに持ち込むことが目的ではありません。
このマネジメントスタイルが目指しているのは、以下のような職場づくりです。
- 部下の主体性を育てる
- 多様な考え方を尊重する
- 信頼関係を築く
- 心理的安全性を保つ
- 一人ひとりがいきいきと働ける環境をつくる
こうした目的にかなうのであれば、指示や助言、ティーチングなども場面に応じて取り入れていくほうが、むしろ効果的な場合があります。
柔軟さと「ぶれない姿勢」の両立
コーチングには臨機応変さが求められますが、一方で揺らいではいけない姿勢もあります。
それが、「コーチはクライアントの課題そのものに直接向き合わない」というスタンスです。
クライアントと一緒に課題解決に取り組む姿勢になってしまうと、コーチングの本質から外れてしまいます。コーチが関与しすぎると、クライアントの気づきや自発的な行動が妨げられてしまうからです。
ケース紹介:教育担当に悩むクライアントの気づき
クライアントの背景
30代の会社員Aさんは、新しく配属されたBさんの教育を任されていました。ところが直属の上司Mさんが、時折Bさんに直接アドバイスをすることがあり、「自分は信頼されていないのでは」と感じるようになったのです。
誤ったアプローチの例
もしコーチが、「Mさんが口を出すのは問題だ」と判断して、Mさんにどう対応すべきかを一緒に考え始めてしまうと、それは課題に向き合っている状態になります。
「どうすればMさんの干渉を止められるか」といった視点は、課題解決には見えるかもしれませんが、コーチングとは異なるものになります。
実際のセッションでの問いかけ
このとき、コーチからは次のような質問が投げかけられました。
- Bさんにどのような学び方をしてほしいと思っていますか?
- Mさんに教育を手伝ってもらうとしたら、どんな役割をお願いしたいですか?
- 教育担当になってから、自分自身が得た学びにはどんなものがありますか?
- Bさんの教育について、改善したいと感じていることは何ですか?
クライアントの気づきと行動プラン
これらの質問を通じて、Aさんは以下のような考えに至りました。
- Bさんは自分だけの部下ではなく、チーム全体で育てていく存在である
- Mさんの関わりは、Bさんの成長にとってプラスになる
- 他のメンバーも巻き込んだ教育体制をつくっていくことが有効である
その結果、Aさんは次のような行動を取ることにしました。
- Mさんに進捗状況をこまめに報告し、指導の役割分担を明確にする
- Bさんと他のメンバーとの1on1ミーティングを設定する
コーチがアドバイスをしたわけではありません。Aさんが自ら考え、答えを見つけ、行動を決めたからこそ、このセッションには大きな意味がありました。
コーチの役割は「視点を届けること」
コーチは、答えを提示するのではなく、問いを通して新しい視点を提供します。ときに、経験や知識を共有したくなる場面もあるかもしれませんが、それはクライアントの内省が十分に進んだ「その先」にあるべきです。
まずは、クライアントの考える力を信じて問いかけること。そのプロセスにこそ、コーチングの本質があると感じています。
本来の自分に向き合う時間を、安心できる対話から。
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