対話を「仕事」にするという選択:心の距離を縮め、チームを育てるマネジメント術

目次

対話が求められる時代に

ここ数年で、「対話」の重要性が再び注目されています。これまでにも繰り返し取り上げてきたテーマですが、現場での実感として、その必要性はいっそう高まっていると感じます。

対話の機会を持つことで、部下やチームメンバーの成長を促し、生産性の向上にもつながる。その認識は、少しずつ浸透してきているようです。

しかし、現実には、マネージャーやリーダーが多忙な日々のなかで、意図的に対話の時間を確保するのは簡単ではありません。
指示や命令、確認、報告といったコミュニケーションは日々の業務に不可欠な「基本動作」として習慣化されていますが、「対話」という時間にはどれだけ意識的に向き合えているでしょうか。


対話は「感情と認識の共有」である

指示や命令は「業務を動かす」ためのもの。対話は「心を動かす」ためのものです。

指示は具体的なタスクや期限、方法を伝え、行動を促します。一方、対話は考えや気持ち、価値観を共有し合うことを目的とします。相手の違いを前提とし、そこから信頼や共感を築く営みです。

従来の一方通行のマネジメントが限界を迎える中、多様な価値観をもつ人材がチームを構成し、環境も目まぐるしく変化していく現在においては、「対話」が果たす役割はますます大きくなっています。

リーダー一人の知識や経験に頼るだけではなく、チーム全体の力を活かしていく。そのためには、感情や思考を行き来させる「対話」という営みが欠かせません。


対話がもたらす組織への効果

対話は組織やチームに多くの良い変化をもたらします。以下はその代表的な効果です。

1. 信頼関係の構築

安心して本音を語れる関係性は、「心理的安全性」の土台となります。そこから主体的な行動、創造的な発想、率直な意見交換が生まれ、結果として業務の質も高まります。

2. エンゲージメントの向上

自分の意見を尊重してもらえる、聴いてもらえるという実感は、仕事に対する関与度を大きく高めます。業務の目的や組織への貢献を認識できれば、内発的なモチベーションも育まれます。

3. 課題の早期発見とリスク回避

定期的に部下やメンバーと対話をすることで、ストレスや小さなトラブルの兆しに早く気づくことができます。これは組織の健全性を保つうえでも重要です。


「対話の時間」を計画に組み込むという選択

「対話の重要性はわかる。でも時間がない」
多くのマネージャーが抱える悩みです。

しかし、だからこそ「計画的に」対話の時間をつくることが大切です。

それは、進捗やタスク確認ではなく、「重要だけれど緊急ではない話」をするための時間。部下のキャリア、思考、価値観、成長について語る、まさに「対話のための時間」です。

対話の機会としてもっとも活用されているのが「1on1ミーティング」ですが、これは単なる進捗確認の場ではありません。
話すのは、部下の考え、感じていること、望んでいること。そこに耳を傾けることが、対話の出発点です。


対話の場を「安心できる空間」にする

対話を効果的にするためには、相手が安心して話せる環境づくりが欠かせません。形式にとらわれすぎず、相手が自由に話せる雰囲気を意識することが大切です。

たとえば、音声のみの1on1も有効な手段です。実際、コーチングの多くは電話で行われています。視覚情報がない分、声のトーンや言葉の選び方に敏感になります。そうした環境は、相手が自分の思いを言語化しやすくなる効果もあるのです。


対話を「仕事」としてカレンダーに組み込む

対話は「仕事」であり、リーダーシップの一部です。だからこそ、会議や訪問予定と同じように、スケジュールにブロックを設定し、チームで共有することが第一歩になります。

「最初から上手にできなくてもいい」
「試行錯誤しながら一緒に形をつくっていきたい」
その想いをメンバーと共有し、対話を組織の文化にしていく。これが、持続可能なマネジメントへとつながります。


対話を文化にする上司の声かけ例

対話を一人で抱え込まず、チーム全体の取り組みにすることも大切です。以下は、対話を「仕事」として取り入れた際の上司のメッセージ例です。

「来週から毎月1回、1on1ミーティングをはじめます。
これは業務報告の場ではなく、『対話』の時間です。
対話とは、お互いの考え方の違いを前提にしながら、それぞれの意見を尊重し、理解を深め合う時間です。」

「私にとっても新しいチャレンジであり、皆さんの力を借りながら良い時間にしていきたいと思っています。最初はぎこちなくても大丈夫です。率直なフィードバックやアイデアを出してくれると嬉しいです。」

「この時間が、皆さんにとっても私にとっても意味のあるものになるよう、少しずつ育てていけたらと思っています。」


小さな対話の種を、チームの文化へ

対話は一朝一夕に根づくものではありません。
ですが、「気づき」「関心」「信頼」「共感」といった、人間関係を育てる要素はすべて、この対話の中にあります。

まずは、小さな一歩から。
スケジュールに1on1の時間を入れること。
メンバーと気持ちを共有すること。
試行錯誤を前提に進めていくこと。

対話の場を育てることは、チームを育てることに直結します。
どうか「対話」を、心と心がつながる「仕事」として捉えていただけたらと思います。

組織の中でリーダーシップをどう発揮し、どう支えるか。
現場で実際に起きているシーンをもとに、貴社にあった研修プログラムをご提案しています。
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この記事を書いた人

安藤 秀樹のアバター 安藤 秀樹 株式会社ドリームパイプライン 代表取締役

株式会社ドリームパイプライン 代表取締役
1980年、新卒で日本NCR株式会社にてキャリアをスタートし、以来一貫して外資系IT企業に勤務。営業、営業企画、マーケティング、製品開発、製品管理、市場開発、米国本社勤務、事業部長、等の領域でマネジメント職を経験。   
2001年、日本NCRを退職後、米国、ドイツ等を本社とする大手IT企業数社の日本法人にて要職を歴任。
2013年より、組織の人材育成、組織活性化のためにコーチングを学び始め、プロフェッショナルコーチ認定資格を取得。修得したコーチングスキルを多様な価値観が求められる外資系IT企業におけるマネジメントに活用しながら(社)日本スポーツコーチング協会の認定コーチとして、高校、大学のスポーツ指導者へのコーチング活動を実施。
2015年から、米国のスタートアップ企業の2社の日本代表を歴任し2021年12月退任。人材育成支援を目的とし、株式会社ドリームパイプライン設立。
著書 『ニッポンIT株式会社』   https://www.amazon.co.jp/dp/B09SGXYHQ5/
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